蜘蛛

蜘蛛は、糸を張って、待つ生き物として読まれてきた。自分の体から糸を出し、目に見えないほど細い網を一晩で張って、かかるものを静かに待つ。日本では古くから、蜘蛛が糸を垂らすと待ち人が来ると言われ、「朝蜘蛛は殺すな」と大事にされてきた。夢の蜘蛛も、自分が張ってきた縁や準備に、何かがかかろうとしている知らせ。そこに、夜の蜘蛛を嫌う言い伝えと、糸に絡め取られる怖さが重なる。
蜘蛛の夢
夢占いでは、蜘蛛の夢は吉夢とされることが多い。表しているのは、縁、準備、根気、そして金運。蜘蛛の巣は、時間をかけて張り巡らせたものが、実りを捕まえる仕組みだから。
読み分けの鍵は、蜘蛛が何をしていたか。巣を張っていた、じっと待っていたなら、自分の準備が整いつつある。こちらへ向かってきた、体に這い上がってきたなら、縁や用件のほうから近づいてきている。糸に自分が絡まっていたなら、その縁に少し縛られている。
蜘蛛の巣の夢
蜘蛛の夢のなかでも、金運の夢として読まれることが多い。きれいに張られた巣が朝露に光っていたなら、これまでの努力が形になる。巣に虫がかかっていたなら、待っていた話や収入が入ってくる知らせで、宝くじと一緒に検索される夢でもある。→ 宝くじ、お金
古く、破れた巣だったなら、手入れをせずに放ってある約束や人間関係がある。巣を払う夢は、それを自分で片づけられる時期。
大きな蜘蛛の夢・襲われる夢
怖い夢として検索されることが多い。夢占いでは、大きな蜘蛛は、自分の周りで大きな力をもつ人や、大きく育った計画を表す。見上げるほどの蜘蛛でも、じっとしていたなら、その力は自分を守る側にある。
襲ってきた、追いかけてきたなら、気にかかっている相手や用事が、夢の中で大きく見えている。逃げ切れた、目が覚めて助かったなら、それで十分。蜘蛛は網の真ん中で待つ生き物で、夢の中でも、こちらが網に近づかなければ糸は届かない。→ 追いかけられる
たくさんの蜘蛛・小さな蜘蛛の夢
小さな蜘蛛がたくさんいる夢は、小さな縁や小さな好機がいくつも巡ってくる夢。気持ちが悪かったなら、細かい用事が積み重なって、息が詰まりかけている。一匹ずつ外へ逃がしていたなら、片づける順番がもう見えている。
蜘蛛が糸で降りてくる夢
天井から蜘蛛がすうっと降りてくる夢は、便りや来客の知らせ。「蜘蛛が下りると客が来る」という言い伝えそのままの夢(下の「現実で蜘蛛に出会ったとき」)。目の前で止まったなら、待っていた人から連絡が来る。
蜘蛛に噛まれる夢
夢占いでは、噛まれる夢は、相手の力が自分に入ってくる夢とも読まれる。思いがけない誘いや、断りにくい頼まれごと。痛かったなら、その話には少し手間がかかる。噛まれても平気だったなら、受けて大丈夫な話。
蜘蛛を殺す夢・退治する夢
絡まっていた問題を、自分の手で断ち切る夢。黒い蜘蛛や大きな蜘蛛を退治したなら、長く気にしていたことに区切りがつく。殺したあとで後味が悪かったなら、その縁にまだ情が残っている。
蜘蛛を食べる夢
驚く夢だが、相手の力や知恵を取り込む夢。苦手な人から学べることがある、苦手な仕事がそのまま自分の腕になる、という知らせ。
蜘蛛の夢と恋愛
恋愛では、蜘蛛は待つ恋の象徴。蜘蛛の巣に蝶がかかる夢は、思う人との縁が結ばれる知らせ。自分が糸に絡まって動けなかったなら、相手に気持ちを預けすぎている。→ 好きな人
蜘蛛の色で読む
- 黒い蜘蛛:まだ言葉にしていない不安や、人に言えない執着。姿が見えたなら、向き合える形になっている。→ 黒
- 白い蜘蛛:守られている、願いが清らかに届く知らせ。→ 白
- 金色の蜘蛛:金運の夢。新潟には、朝の蜘蛛を「金蜘蛛(かねくも)」と呼ぶ言い伝えもある。→ 金色
- 黄色と黒の蜘蛛:女郎蜘蛛のような派手な蜘蛛は、華やかな誘い。楽しんでいいが、糸の張り方をよく見る。→ 黄色
- 赤い蜘蛛:情熱、恋の高まり。→ 赤
- 茶色の蜘蛛:暮らしの中の、地に足のついた運。家事や仕事の積み重ねが報われる
現実で蜘蛛に出会ったとき
- 朝、蜘蛛を見かけた:「朝蜘蛛は殺すな」。福や客を運んでくる蜘蛛として、そっとしておく。兵庫には、朝の蜘蛛は福の神だと言って、懐に入れる土地もあった
- 昼に蜘蛛が下りてきた:愛知では「昼蜘蛛が下ると来客がある」、岐阜では「昼に、自分の前に蜘蛛が下りるとよいことがある」と言われてきた
- 夜、蜘蛛を見かけた:「夜蜘蛛は殺せ」と言われるのは、夜の蜘蛛が各地で盗人の先触れとされてきたから。殺すのが気になるなら、外へ逃がして、戸締まりを確かめて休めばいい
- 朝蜘蛛をうっかり殺してしまった:言い伝えは、朝の蜘蛛を大事にすることを勧めるもの。気になるなら、外に出して手を合わせ、次に見た朝蜘蛛をそっとしておく
- 玄関や車、トイレに蜘蛛がいる:玄関の蜘蛛は、人や便りの入口に待ち人の知らせが来ている。車の中なら、出かけた先での出会い。トイレの蜘蛛は、家の中の滞りを知らせる。→ 車、トイレ、家
日本の縁起
- 朝蜘蛛と夜蜘蛛:「朝蜘蛛は親の仇でも殺すな、夜の蜘蛛は親でも殺せ」。言い回しは土地ごとに違い、秋田では「朝の蜘蛛は御馳走の使者、夜の蜘蛛は盗賊の先立ち」、新潟では「朝の蜘蛛は金蜘蛛、夜の蜘蛛は泥棒蜘蛛」、和歌山では「夜蜘蛛は親に似ていても殺せ、朝蜘蛛は鬼に似ていても殺すな」。沖縄の座喜味では、朝に天井から蜘蛛が下りてくればその日は一日よいことがあり、夜なら外に出てはいけない、と言った。朝は福と客、夜は盗人、という筋は北から南まで通っている
- ささがにの待ち人:蜘蛛が巣をかけると恋しい人が来る、という言い伝えは古い。『日本書紀』允恭天皇の巻には、衣通郎姫(そとおりのいらつめ)が「我が夫子が 来べき宵なり ささがねの 蜘蛛の行ひ 今宵しるしも」と詠んだ歌が残る。今夜あの人が来るはず、蜘蛛の振る舞いがそれを告げている、という歌。『古今集』には「ささがにの」の形で収められ、以後の和歌では「ささがに」が蜘蛛そのものを指す言葉になった
- 蜘蛛の糸:芥川龍之介の短編(1918年)。極楽の蓮池のほとりで、お釈迦様は地獄の底にいる大泥棒の犍陀多(かんだた)を見つける。生前、林の中で踏み殺しかけた小さな蜘蛛を、命あるものだからと助けたことがあった。その一つの善行のために、お釈迦様は極楽の蜘蛛の銀色の糸を、白い蓮の間から地獄へ垂らす。犍陀多はのぼり始めるが、後から罪人たちが続くのを見て「この蜘蛛の糸は己のものだぞ。下りろ」と喚いた途端、糸は彼のところからぷつりと切れる。→ 蓮
- 土蜘蛛:『古事記』『日本書紀』や『常陸国風土記』では、朝廷に従わない土地の人々を「土蜘蛛」と呼んだ。のちに巨大な蜘蛛の妖怪の名になり、東京国立博物館の『土蜘蛛草紙』(14世紀、重要文化財)には、源頼光が古家で次々に現れる怪異と戦い、最後に巨大な蜘蛛を退治する話が描かれている。夜蜘蛛を嫌う言い伝えの奥には、闇に潜むものへの昔からの畏れがある
タロットの蜘蛛
ウェイト版に蜘蛛が描かれた札は無い。糸と待つことに重なる札を並べて読む。
- 運命の輪:雲の中に大きな輪が浮かび、上にスフィンクス、四隅に翼のある四つの生き物。巡り合わせ、縁が回ってくる札。蜘蛛の巣に何かがかかる夢の日にこの札が出たなら、巡ってきたものを受け取っていい
- ワンドの3:崖の上に立つ人の後ろ姿。海を行く船を見下ろしている。自分の送り出したものが帰ってくるのを待つ札で、網を張って待つ蜘蛛と同じ姿勢
- 月:夜の道の手前で、水たまりからザリガニが這い出してくる。夜に出てくるものへの不安の札。夜蜘蛛や大きな蜘蛛の夢のあとに出たなら、怖さの正体はまだ輪郭がはっきりしていないだけ。→ 月
世界の象徴としての蜘蛛
- アラクネ:オウィディウス『変身物語』に出てくる、機織りの上手な娘。女神アテナ(ミネルヴァ)と腕比べをして、神々の過ちを織り込んだ見事な布を仕上げた。怒った女神に布を裂かれたあと、蜘蛛に変えられ、今も糸を紡ぎ続けているという。蜘蛛の仲間(クモ形類)を指す英語 arachnid は、この娘の名から。→ フクロウ
- アナンシ:西アフリカ、ガーナのアシャンティの民話に出てくる蜘蛛。天空神ニャメが持っていた世界中の物語を、ニシキヘビ、ヒョウ、スズメバチの群れ、森の精を知恵で捕らえて差し出し、代わりに譲り受けた。それでアシャンティの昔話は「アナンセセム(蜘蛛の話)」と呼ばれる。→ 蜂
- ドリームキャッチャー:北米のオジブワの人々に伝わる、蜘蛛の巣を模した輪飾り。寝床の上に吊るすと、悪い夢は網にかかり、良い夢だけが下りてくるとされる
アラクネは女神と張り合うほどの布を織り、犍陀多の前には極楽から一本の糸が下りてきた。衣通郎姫は、蜘蛛の振る舞いに今夜の訪れを読んだ。夢で蜘蛛が糸を垂らしていたなら、その先に誰が、何が来るのかを待ってみていい。

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大アルカナから一枚。
