蝶

蝶は、姿を変えて生まれ直すもの、そして魂が形をとったものとして読まれてきた。地を這う幼虫が、さなぎの中で一度溶けるように眠り、羽を持って出てくる。日本では、生きている人の魂も、亡くなった人の魂も、蝶の姿で飛ぶと言われてきた。夢に蝶が出てきたのは、自分がいま変わりかけているか、誰かの思いがこちらへ届いているしるし。荘子が蝶になった夢を見て、自分が蝶なのか人なのか分からなくなった話は、夢と蝶がどれほど近いものかを伝えている。
蝶の夢
夢占いでは、蝶の夢は多くが吉夢とされる。表しているのは、変化、成長、恋、そして魂の軽さ。
読み分けの鍵は、蝶がどの段階にいたかと、蝶と自分の距離。幼虫やさなぎなら、変化はまだ内側で進んでいる途中。羽を広げて飛んでいたなら、もう外に出はじめている。遠くを舞っていた蝶は、これから来る知らせ。体にとまった蝶は、もう自分のところに届いた知らせ。
蝶が飛んでいる夢・ひらひら舞う夢
花のあいだを軽やかに飛ぶ蝶は、気持ちがほどけて、暮らしが明るく動き出す夢。恋の始まりの夢としても読まれる。蝶がふらふらと落ち着かなかったなら、気持ちが一つに決まらずに揺れている。
蝶が体や手、顔にとまる夢
蝶の夢のなかでも喜ばれる夢。幸運や、いい縁が自分のところに降りてきている。手や指にとまったなら、自分の手で掴める機会。顔にとまったなら、人の目に留まる時期で、評価や好意が集まりやすい。とまった蝶が静かに羽を閉じていたなら、その幸運はしばらく留まる。
蝶がまとわりつく・ついてくる夢
離れずについてくる蝶は、気にかけてくれている誰かの気持ち。温かく感じたなら見守られている夢で、うるさく感じたなら、好意や期待が自分には少し重くなっている。
蝶を捕まえる夢
欲しかったものに手が届く夢。恋なら思いが通じる。ただ、捕まえた蝶の羽が傷んでしまったなら、急ぐと壊してしまうものがある。手を開いて逃がした夢は、手放すことで軽くなれる時期。
たくさんの蝶の夢
一面に舞う蝶は、喜びや出会いが一度に押し寄せてくる夢。色とりどりなら、人間関係が広がる。群れが渦を巻くようで落ち着かなかったなら、気持ちが散らばっている。
大きな蝶の夢
大きな蝶は、大きな変化や、目上の人から届く知らせ。見とれるほど美しかったなら、思っている以上の変わり方をする時期。
幼虫・さなぎ・羽化の夢
蝶の夢のなかで、いちばん筋がはっきりしている夢。幼虫は準備のとき、さなぎはじっと力をためるとき、羽化は外へ出るとき。さなぎから蝶が出てくる夢を見たなら、長く抱えていたことが形になる。まだ幼虫の夢なら、焦らずに食べて眠って育つ時期。
蝶が家に入ってくる夢
家に知らせや来客が舞い込む夢。昔から、客間に入ってきた蝶は、会いたい人が訪ねてくる前触れとされてきた(下の「日本の縁起」)。→ 家
蝶が死ぬ夢・蝶の死骸の夢
ひとつの時期や恋が区切りを迎える夢。蝶の一生は短く、そのぶん次の季節へ命を渡していく。悲しかったなら、終わるものへの名残がまだある。静かに見送れたなら、もう次へ移れる。
蝶の色で読む
- 白い蝶:清らかな知らせ、守られていること。亡くなった人の魂と結びつけて語られることが多い(下の「日本の縁起」)。→ 白
- 黒い蝶・黒いアゲハ:まだ言葉にならない気持ちや、見えない側からの知らせ。お盆の頃に黒いアゲハを見て、帰ってきた人を思う人も多い。→ 黒
- 黄色い蝶:明るい便り、金運、気持ちが晴れること。→ 黄色
- 青い蝶:遠くにあった願いが近づく夢。→ 青
- アゲハ蝶:大きく羽を広げた、華やかな変化の夢。下の家紋のように、蝶のなかでも格のあるものとされてきた
蛾の夢
夜に飛ぶ蛾は、昼には見えないところの気持ちを表す。灯りに寄っていく蛾なら、惹かれている何かがある。
胡蝶の夢
夢の辞典で蝶を引いたなら、この話は外せない。中国の『荘子』斉物論にある。
昔、荘周(荘子)は夢で蝶になった。ひらひらと楽しく飛び、自分が荘周であることも忘れていた。ふと目が覚めると、まぎれもなく荘周だった。けれど、荘周が夢で蝶になったのか、蝶が夢で荘周になっているのか、分からない。荘周と蝶とは、形の上では確かに別のもの。これを「物化」、ものが移り変わること、という。
夢の中の自分と、起きている自分。どちらが本当かを決めるより、どちらも自分が移り変わる姿のひとつ、と受け取る話として読まれてきた。蝶になって楽しく飛んだ夢を見たなら、それは荘周の夢と同じく、ふだんの自分から離れて、別の形の自分をひととき生きた夢。目が覚めても、その軽さを少し持ち帰っていい。
現実で蝶に出会ったとき
- 蝶が家や部屋に入ってきた:会いたい人が訪ねてくる、いい知らせが届く前触れとされる
- 蝶が体や手にとまった:守られているしるし、幸運が降りてきたしるしとして受け取っていい
- 蝶がついてくる・何度も目の前を横切る:何かを伝えに来ている、と感じる人は多い。そのとき思い浮かんだ人のことを、少し思い出してみる
- 亡くなった人のあとで蝶を見た:お葬式やお墓参り、お盆の頃に、白い蝶や黒いアゲハが寄ってくると、故人が会いに来たと受け取られてきた。→ 亡くなった人、墓
- 神社で蝶を見た:歓迎のしるしとして語られることがある。→ 神社
日本の縁起
- 蝶は魂の姿:小泉八雲は『怪談』の「蝶」で、日本では生きている人の魂も蝶の姿でさまよい、亡くなった人の魂も蝶の形をとる、と書いている。客間に蝶が入って簾の陰にとまると、自分のいちばん愛する人が訪ねてくる、という言い伝えもそこに記されている
- 高浜と白い蝶:同じく八雲が書き留めた話。寺の墓地のそばに一人で住む老人、高浜が夏に病の床についたとき、大きな白い蝶が部屋に入り、三度追っても枕に戻ってきた。甥が追っていくと、蝶は墓地の中の「明子」と刻まれた墓の前で消えた。明子は五十年あまり前、婚礼の直前に十八で亡くなった許婚で、高浜はそれからずっと独りで、毎日その墓に参っていた。部屋に戻ると、高浜は眠るように息を引き取っていた。白い蝶は、迎えに来た明子の魂だった
- 常世神:『日本書紀』には、皇極天皇3年(644年)、富士川のほとりで、橘や山椒につく緑に黒い点のある虫が「常世の神」として祀られ、富と若返りをもたらすと言われて大流行した、とある。アゲハの幼虫と考えられている。生まれ変わる虫を、人は古くから神として拝んできた
- 揚羽蝶の家紋:平清盛の一門が用い、平家の紋として知られるようになった。戦国時代には、織田家に仕えた池田恒興がこの紋を与えられ、池田家の紋になった
- 花札の猪鹿蝶:六月の牡丹に蝶の札は、猪・鹿と揃えて役になる。→ 鹿
- 結婚式の蝶:中国では、花を求める蝶は仲のよい夫婦のたとえで、「蝶」の音が長寿を表す語と重なることから、縁起のいい模様とされてきた。一方、日本では魂や死と結びつくことから、婚礼では避ける人もいる。→ 結婚
タロットの蝶
ウェイト版では、大アルカナに蝶を主役に描いた札は無い。蝶が出てくるのは、剣(ソード)の組の宮廷札。
- ソードのクイーン:蝶をあしらった冠をかぶり、蝶の彫られた玉座に座る女王。悲しみを知ったうえで、澄んだ目で物事を見る人
- ソードのキング:玉座の背に蝶と三日月が刻まれている。冷静な判断の座にも、変化の印が置かれている
読みが重なる大アルカナは二枚。
- 月:夜の水辺から這い上がる生き物と、遠くへ続く道。夢と現のあわいを描く札で、胡蝶の夢と同じ場所に立っている
- 死神:白い馬に乗った死神と、二つの塔のあいだに昇る太陽。終わりと、そこからの生まれ変わり。さなぎから蝶が出てくる夢を見た日にこの札が出たなら、変わり目の読みがそのまま重なる
世界の象徴としての蝶
- プシュケー(古代ギリシャ):ギリシャ語の「プシュケー」は魂や命を表す言葉で、蝶の意味も持つ。神話でエロスに愛された娘プシュケーは、絵や彫刻で蝶の羽を持つ姿に描かれてきた
- オオカバマダラ(メキシコ):北アメリカから渡ってくる蝶の群れが、毎年11月の初め、死者の日の頃にミチョアカンの森へたどり着く。土地の人々は、この蝶を帰ってくる死者の魂と受け取ってきた
- 中国の蝶:長寿と、夫婦の睦まじさのしるし(上の「結婚式の蝶」)
高浜の枕に三度戻ってきた白い蝶は、五十年のあいだ毎日墓に通った人を、最後に迎えに来た。夢の中で体にとまった蝶も、ずっと自分を気にかけてきた誰かの思いが、軽い羽の形をとって降りてきたもの。

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今日の一枚
大アルカナから一枚。
